熱水の影響を受けた岩石材料の工学的特性

 

鈴木 哲也

 

日本は地質時代、現代を通じて火成活動が盛んであり、各種の熱水変質作用が認められており、白亜紀より新規の地層の分布域においては、熱水変質作用に関係のないところは希と考えられている。とりわけ島弧の内側に沿って新第三紀中新世に始まり、第四紀にまで及ぶ一連の火山活動が行われたグリーンタフ地域において、熱水変質作用の影響が顕著である。

熱水変質作用を受けた岩石は、原岩の形をとどめないほど変化し、工学的性質も岩より土に近いものとなる場合があり、その代表的なものは「温泉余土」として知られている。地質工学の立場からみると、熱水変質作用を受けた地域は地すべり、崩壊等の斜面災害を発生しやすく、最近大きな被害をもたらした豊浜トンネルや白糸トンネルの大規模岩盤崩落においても変質した岩盤の特性が崩落の素因として大きく関与していたとされている。熱水変質作用を受けた岩盤においては、トンネル掘削中の盤ぶくれや完成後におけるライニングの変状もしばしば認められる。さらに変質した岩石を骨材として使用することにより、過早凝結現象が発生しコンクリートの打設に困難をきたしたり、乾燥収縮に起因する亀裂により構造物に欠陥が生じた例も数多い。

これらの様々な現象の発生には、熱水変質作用による岩石や岩盤の工学的性質の変化が主要な役割を果たしている。すなわち熱水変質作用を受けた岩石においては、鉱物の生成・消滅といった鉱物学的変化や、物質の溶脱・添加といった化学的な変化が生じる。これらの変化にともない岩石の組織の改変といった物理的変化が生じ、その結果として強度、膨潤性などの工学的性質が変化する。

今回の講演ではわが国に広く分布し、しかも熱水変質作用しばしば被っている火山岩を対象とし、熱水変質作用による粘土化作用と岩石・岩盤の工学的性質の関係について述べる。

 

@ 熱水変質岩に生じる変化とその把握方法

A 熱水変質作用による岩石強度の変化

B 熱水変質岩の劣化特性

C 熱水変質した骨材を使用したコンクリートに生じた現象